松居 和(尺八奏者、音楽プロデューサー、元埼玉県教育委員会教育長)
「女性の社会進出という市場原理によるおかしな考え方」
松居和 一言で言うと、女性の男性化ですね。アメリカでは、女性が強くなり、女性の経済競争への参加が進んでいます。日本でも「女性の社会進出」という言い方をしますが、これは社会進出ではなく、「経済競争への参加」です。ちゃんと、そう言うべきです。社会進出というのは適切ではありません。
子どもが大きくなったから母親が「社会復帰する」というような言い方は、まるで子どもを育てている最中は社会にいない、と言っているようで、極めて視野の狭い考えかたです。母親が家庭で子供を育てることは、社会にとって極めて大切な役割です。狩りに出るより大事なことなんじゃないかな。この、「社会進出」という言葉を使って、働いていないと一人前でないとでもいうような稚拙な洗脳、誤った認識の拡散は、まさに市場原理による罠だと思います。
Saya 市場原理に母親を持ち出してしまったことが、アメリカにおける最初の崩壊のきっかけとなったということですか。
松居和 アメリカにおける母子分離は、主に市場原理によって引き起こされた現象です。「欲の資本主義」が社会の中心になることで、この問題は雪だるま式に広がって行きました。現在、アメリカの子供の約4割は未婚の母親から生まれている。スウェーデンやフランスでは6割に達しています。「平等」という目標を持っても、結局は、男性たちが責任を逃れる傾向になってきて、子供が18歳になるまでに4割の親が離婚していますから、8割近い女性が未婚もしくは離婚した母親になっている。実の親に育てられる子供が、すでに少数派となっている。
娘を持つ親は、将来、離婚した際、シングルマザーになった際に自立できるように、手に職をつけるか大学をしっかり出すように育てます。
Saya 家族などの安定の基盤が無くなり、女の子が自立しなければいけないんだという方向になったんですね。
松居和 ちなみに、女性が自立し始めると、ゲイの人々が増える傾向がある。大自然のバランスでしょうかね。サンフランシスコは4人に1人がゲイですし、私がいた音楽業界では、ゲイの人々が多く活躍しています。個人的に、ゲイは信用できる人が多いと思います。男性らしさに縛られず、正直にカミングアウトした、誠実な人たちが多いです。
話はそれましたが、日本ではまだ欧米に比べて未婚の母が少ない。子育てに喜びを感じてくれる女性の方が多い。女性らしい女性が多い。そういうと、「女性らしさなんて古いんだ」という人達がいるわけですが、これは社会の安定には不可欠な要素です。男たちは、もっと感謝した方がいい。
Saya 将来お嫁さんになりたい、という子どもに対してもネガティブな評価がされようになったと聞きます。
松居和 そういいながら、彼らが頼る、女性の社会進出に必要な保育業界、これはずっと「女性らしさ」で成り立ってきたんですよ。「子供を可愛がる」という保育士の女性らしさと、園長先生のおばあちゃん心で成り立ってきたんです。ここまで保育士不足になっているのは、女性らしさに頼りながら、女性らしさを否定する連中が、暗躍してきたからです。
Saya 国の政策としても、女性が活躍する社会を目指せ、働くことで輝けという指標が示されてしまっています。
松居和 子どもを育てることこそ立派な大活躍、と思うべきなのに、税金をいくら収めたから活躍だとか、政治家が「子育て」に損得勘定を持ち込んでいる。日本には、欲を捨てることに幸せを感じる、仏教の土壌があります。
「男はつらいよ」シリーズが大ヒットする背景にもそういう土壌がある。48作品が作られた国民的人気の映画です。寅さんは、ホームレスのような状況でありながら、何も持たない彼が一番幸せそうに見えることが特徴です。
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